すれ違い 見間違い


 異国からやってきた者が女王騎士になった。
…そういう事例がないわけではない。第一、騎士長フェリド自身が異国の人だ。
異国からこの国の武門の中枢に招かれるということは、単純に部隊としての力を上げるため…というのが多い。
 例に漏れず、ゲオルグはフェリドと互角の勝負をやってみせた。最終的にはゲオルグがフェリドに土をつけられた形になったが、勝ったフェリドが渋い顔をしたままだということを考えれば、おそらくゲオルグはフェリドに花を持たせたのだろう。
異国の剣豪、ゲオルグ=プライム。
涼やかな黒髪、落ち着いた黒い瞳。眼帯で片目を隠し背は高く引き締まった肉体。「美丈夫」という言葉がしっくりくる。フェリドと対を成せば、それはそれは絵になった。

 …が、カイルはそんな彼をおもしろく思っていなかった。
厳密に言えば、剣の腕は尊敬できるし、話せば気さくでいい人だとは思う。詰所で美丈夫が黙々とチーズケーキを食する姿は愉快だ。
しかし、おもしろくない理由は別にあった。
 チーズケーキを食べるゲオルグの横には、イストファーンがくっついている。
イストファーンは、彼をいたく気に入っていた。彼の一挙動が気になる。とばかりに始終はりつき、ゲオルグに暇があれば異国の話をせがむ。
(王子……俺にはあんな顔してくれないくせに……)
ゲオルグの傍に居るイストファーンは嬉しそうだ。満面の笑顔を浮かべてゲオルグの話に相槌を打っている。
カイルに対するイストファーンはあんな顔はしない。さも迷惑。と顔に浮かべる。…いや、それが嫌だ。というわけではないのだが。

 現在、カイルは詰所の円卓に、ゲオルグとイストファーンから背を向けて座っている。
その眉間には、深い深い皺がある。

 「王子、食事中くらい離れてくれませんか?落ち着いて食えやしない」
「“イスト”でいいよ。ゲオルグは父さんの友達でしょう?」
「そういうわけにはまいりません。一応、“建前”というものが存在しますから」
「“建前”ね…建前建前。嫌な言葉だよ」
(…なんでそんなにフレンドリーなんですか?王子……)
悶々。

 「カイルさま…体の調子でも悪いのですか?」
声をかけられ顔を上げると、円卓の対面でリオンが苦笑していた。リオンはイストファーンの護衛という任を背負っているため、イストファーンの近くに常に控えている。イストファーンに「今はゲオルグと話がしたいから少し遠くに居ろ」とでも言われたのだろう。
 「……ちょっと、ね」
カイルは背後に視線をやりながら、頬杖をつく。
「だったら、お医者様に診ていただきますか?早め早めの処置が大切。と言いますし……」
「じゃあ、リオンちゃんついてきてよ。王子のことはゲオルグ殿にお任せしてさー」
「え!?えっと……」
そこで頬を赤らめるリオン。カイルはゲオルグに対するイストファーンのように笑顔を浮かべる。
「大丈夫大丈夫。どうせちょーっと、すぐの話だしさ、王子は王子で盛り上がってらっしゃるみたいだし?」
「でも……わたしは王子の傍仕えとして……責務が……」
「リオンちゃんは真面目だなぁ。そんなのこの部屋に置いてくればいいって」

 かたん。

 「そんなに医務室に行きたいなら、僕が話をつけてあげるよ?」
「お、王子っ!?」
カイルが慌てて振り返ると、腕を組んだイストファーンがカイルを見下ろしていた。
「……まぁ、そんなに元気な病人なんて嫌がられるだけだろうけど。リオン、行くよ」
「はい王子」
 リオンは席を立ち、詰所を出て行くイストファーンの前に立ち、扉を開けてやる。





 「…はぁぁぁぁぁ……」
カイルは重い重い息を吐いた。
カイルはゲオルグよりも剣の腕は下だし、異国のことなんてちっとも知らない。いつもイストファーンを怒らせてばかりだ。
…ただ少しだけ、ゲオルグがうらやましかったから気を引くようなことを言ってみせただけだ。
「カイルは王子になつかれているんだな」
「そんなことないっすよー。王子はいつもあんな調子ですよ」
「そうか?俺には王子がお前を慕っているように見える」
「…まっさかぁ」
カイルが抗議の声をあげるとゲオルグはくつくつと笑いながら、

 「お前がそんな風だと、王子殿下も気苦労が絶えんな」

と、言った。



*****言い訳
(わたしの中では)イストがカイルに対して悶々とした思いを抱えてるので、今回逆〜…ということで、カイルがやきもちを焼くかんじです。
気を引くためにリオンに気があるふりをしたら、効果ありすぎて逃げられましたとさ。ということで。
ゲオルグはイストがカイルに淡く想っているというのは知っているので、報われないイストを哀れんで…いるのか面白がっているのか。


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